毎日の生活、子育て、仕事に「もっと時間に余裕があれば」「フレックスやリモートワークがあれば」「これだけIT技術も進んできたんだから、何かもっと楽にならないの」と思っていませんか?
実は、世界幸福度ランキングで常に上位の北欧諸国では、IT技術を活用した柔軟な働き方が当たり前に定着しています。そして、それが高い生産性と幸福度を両立させる秘訣になっているのです。
この記事では、北欧のIT技術を活用した働き方の実例と、日本が見習うべきポイントをご紹介します。仕事も家庭も大切にできるヒントが、きっと見つかるはずです。
北欧はなぜ「IT先進国」になれたのか

北欧はITの分野でも先進的です。スウェーデン生まれのSkype、フィンランド生まれのNokia、そしてエストニアは「北欧のシリコンバレー」とも呼ばれ、多くのIT企業が集まっています。
では、なぜ北欧がIT先進国になれたのでしょうか。
その背景には、昔から国民のIT知識が高まる教育システムを構築してきたことがあります。北欧諸国では、生活の中でIT技術に携わる機会が多く、老若男女問わず、普段の生活からIT機器を使いこなしているのです。
また、参加型社会であるため国民が新しいサービスや技術革新などに進んで参加しようとする文化も大きな要因です。公共サービスや行政取引など、積極的にキャッシュレス化やペーパーレス化などIT技術を使用しているため、国全体でデジタル化が進んでいます。
スウェーデンで用いられているSwishというサービスは、相手の電話番号さえわかればすぐに送金できる仕組みで、日常的に使われています。
北欧の働き方①:フレックスタイム制が当たり前
北欧の働き方の特徴として、まず挙げられるのがフレックスタイム制の普及です。
ノルウェーでは、82%の企業がフルフレックスもしくはフレックス制度を導入しており、78%でリモートワークが認められています。そして、企業の93%が自社の生産性が高いと回答しています(一方、日本では生産性が高いと回答した企業はわずか23%にとどまっています)。
2013年の調査では、フレックス勤務が可能な企業は、フィンランドで90%、デンマークでは88%、スウェーデンでは82%に達していました。これらの数字は、北欧ではフレックスタイム制が「一部の先進企業だけのもの」ではなく、社会全体に広く浸透していることを示しています。2025年現在の日本から見ても、かなり高い割合であることがわかります。
フィンランドでは、1996年に法制化された労働時間法によって、就労者は勤務開始および終了時間を3時間早めたり遅らせたりして、自由に設定することが可能になりました。さらに2020年1月施行の新しい労働時間法では、4ヵ月の労働時間平均が週40時間を超えないという条件で、フルタイム就労者の多くは勤務時間の半分を自宅やカフェなど、どこで勤務するかを決めることが可能になったのです。
つまり、幼稚園に子どもを迎えに行ったり、外が明るいうちに運動するために、仕事を朝早く始めて午後早めに切り上げるということが、法律で保障されているのです。
北欧の働き方②:リモートワークは「当たり前」

北欧では、数十年前からテレワークが推進されてきました。1990年代から欧州テレワーク議会が開催され、2002年には各国の労働組合など各種団体とテレワークに関する枠組み合意が締結されています。
2017年のEU30カ国の給与取得者を対象とした調査では、デンマークでは23%、オランダでは21%、スウェーデンでは18%が、少なくとも月に数回、在宅勤務を行っていました。これはコロナ以前からの数字であり、北欧ではリモートワークが日常的に定着していたことがわかります。
さらに注目すべきは、2020年のパンデミック発生後、テレワークに移行した就労者の割合です。EUの平均は37%だったのに対し、フィンランドが最高で60%近くに達し、デンマークでは50%を超えています。
北欧でリモートワークが成功している理由は、単に「制度がある」からではありません。ワークライフバランスが重視されている文化と、IT技術によるインフラ整備の両方が揃っているからです。
北欧の働き方③:「自己判断で進める業務」が8割
ノルウェーでの調査では、自らの業務を「自己判断で進めていく業務」であると回答した人は全体の約8割を占めています。そして、それらの人は「所属企業の労働生産性は高い」と回答する割合が高い傾向にありました。
一方、日本では「手順が決まっている業務」いわゆる「ルーチンワーク」とする割合が4割を超えています。また、上司や監督者が管理監督する必要のある業務では、フレックス制度や在宅ワークが実態として導入しづらく、決められた日(主に平日)・時間に出勤をする形態が多くなっています。
つまり、北欧では業務の自由度の高さ、自分で業務を進めていくという文化から、フレックス制度や在宅ワークを認めている企業が多いのです。そして、この高い生産性には、長時間労働が評価されず、早く仕事を済ませて帰宅するという姿勢が評価される文化が浸透していることが関係しています。
「失敗を許容する文化」と「信頼に基づく社会契約」
高福利が冒険を支える
北欧では、高福利政策(医療費無料・学費無料など)が「失敗しても生きていける」という安心感を生み出しています。この仕組みが、失敗を恐れず新しいものを取り入れる、新しいことに挑戦しダメだったらやめるor変えていけばいいという文化を形成しています。
つまり、セーフティネットがしっかりしているから、リスクを取って新技術に挑戦できるのです。
「信頼」に基づく社会契約
北欧の国民は非常に高い税金を払っていますが、「この税金は自分たちの福祉や教育、医療のために使われる」と信じています。この「国民と国家の間の信頼」が、政府が新技術導入の方針を打ち出したときに、国民がそれを受け入れる土壌になっています。
その根本にあるのは、国民の政治への関心の高さです。北欧諸国の投票率は80%を超えています。それだけ関心があるから、政治も国民の期待に応える政策を打ち出す必要があるのです。
参加型社会
北欧では参加型社会であるため、国民が新しいサービスや技術革新などに進んで参加しようとする 文化があります。政府や企業が新技術を導入する際、国民が積極的にその導入に関わります。
北欧では、政府・企業・市民などの関係者が一緒になって、コミュニティの課題解決に取り組む「参加型デザイン」が浸透しています。これが製品開発やデジタルサービス、まちづくりなどいろいろな分野でイノベーションを起こす原動力となっています。
IT技術がリモートワークや生活を支える
北欧でリモートワークやフレックスタイム制が広く定着している背景には、ITインフラの充実があります。北欧の企業は、こうしたIT技術への投資を惜しまず、社員が働きやすい環境を整えることで、高い生産性と幸福度を実現しているのです。
それに加えてITに関する教育が早期に行われてきたこと、行政や生活の中でもITを積極的に活用してきたという背景があります。
日本の現状と課題

では、日本の状況はどうでしょうか。
2024年11月、厚生労働省は在宅勤務などテレワークで働く日に限ったフレックスタイム制を導入すると発表しました。会社への出社とテレワークを組み合わせて勤務する人が対象で、育児や介護など多様な働き方のニーズに対応する動きが始まっています。
しかし、日本のフレックスタイム制の導入率は、業種によって大きな差があります。情報通信業では25.3%、学術研究・専門・技術サービス業では13.9%と比較的高い一方、医療・福祉では1.7%、教育・学習支援業では2.0%、建設業では2.1%にとどまっています。
また、2011年に39カ国を対象に行われた調査では、フィンランドは就労者が勤務時間を選択できた企業が全企業の92%を占めていたのに対し、日本は18%で、39カ国中最低でした。
この数字が示すように、日本ではまだまだフレックスタイム制やリモートワークが「一部の恵まれた企業のもの」という状態が続いています。
日本が見習うべき北欧のポイント
では、日本は北欧から何を学ぶべきでしょうか。ポイントは3つあります。
IT技術への投資を惜しまない
北欧では、リモートワークを実現するためのITインフラ整備に積極的に投資しています。クラウドサービス、コラボレーションツール、セキュリティ対策など、社員が安心して働ける環境を整えることが、結果的に生産性向上につながっています。
日本でもツールを導入する企業が増えてきていますが、まだまだ「紙と印鑑」の文化が残っている企業・行政も多いのが現状です。IT技術への投資は「コスト」ではなく「未来への投資」として捉える視点が必要です。
特に行政は予算やコストの意識が強く、良いサービスがあってもなかなか導入されない風潮があります。2021年にデジタル庁も発足しましたが、より一層働きやすい、暮らしやすい社会への「投資」を促進してもらいたいですね。
「制度」だけでなく「文化」を変える
北欧でフレックスタイム制やリモートワークが成功しているのは、単に制度があるからではありません。「長時間働くことが評価される」のではなく、「早く仕事を済ませて帰宅することが評価される」という文化が根付いているからです。
日本でも制度を導入するだけでなく、「定時で帰ることは悪いことではない」「リモートワークでも生産性は下がらない」という意識改革が必要です。
「自己判断で進める業務」を増やす
北欧では、業務の8割が「自己判断で進めていく業務」です。一方、日本では「手順が決まっている業務」「上司の管理監督が必要な業務」が多く、これがフレックスタイム制やリモートワークの導入を妨げています。
業務プロセスを見直し、社員が自律的に判断できる領域を増やすことで、柔軟な働き方が可能になります。
今、日本の企業でも動き始めている
こうした北欧の働き方を見習って、日本でも少しずつ変化が起きています。
また、フレックスタイム制についても、2019年4月の働き方改革関連法の一部改正によって拡充され、従来よりも柔軟な運用が可能になっています。清算期間枠が1か月から最長3か月に延長され、3か月の間で働く時間の調整をすることができるようになりました。
2026年の労働基準法改正に向け、テレワークとオフィス勤務に加えて働き方に対応するため、一部の曜日・時間帯だけフレックスを変更できる『部分フレックスタイム制』の導入やテレワーク時のみなし労働時間制の見直しなどが図られています。
子育て世代が柔軟な働き方を選べる未来へ
30〜40代の子育て世代にとって、フレックスタイム制やリモートワークは「あったらいいな」ではなく、「なくては困る」ものになりつつあります。
朝の保育園送り、夕方のお迎え、子どもの急な発熱…。こうした日々の小さな出来事が、硬直的な働き方では大きなストレスになってしまいます。
でも、フレックスタイム制があれば、朝早く出社して夕方早めに切り上げることができます。リモートワークができれば、子どもが熱を出したときに看病しながら仕事もこなせます。
北欧の人たちが実現している「仕事も家庭も、どちらも大切にする働き方」は、決して夢物語ではありません。IT技術と制度、そして文化が揃えば、日本でも実現できるはずです。
まとめ

北欧諸国がIT先進国として成功している背景には、国民のIT教育、参加型社会の文化、そして何より「人が働きやすい環境をIT技術で実現する」という明確なビジョンがありました。
フレックスタイム制やリモートワークは、単なる「福利厚生」ではありません。生産性を高め、社員の幸福度を上げ、結果的に企業の競争力を高める重要な経営戦略なのです。
北欧が教えてくれる3つのポイント:
- IT技術への投資を惜しまない — クラウド、コラボレーションツール、セキュリティ対策など、働きやすい環境を整えることが生産性向上につながる
- 「制度」だけでなく「文化」を変える — 長時間労働ではなく、効率的に仕事を終えて帰宅することが評価される文化をつくる
- 「自己判断で進める業務」を増やす — 社員が自律的に判断できる領域を増やすことで、柔軟な働き方が可能になる
大切なのは、「今のままでは無理」とあきらめるのではなく、「どうすれば実現できるか」を考えることです。
IT技術は日々進化しています。クラウドサービスやコラボレーションツールは、以前よりもずっと安価で導入しやすくなっています。またAIなど、強力なツールも日々刷新されていきます。あとは、それを活用する「意志」と「文化」です。
普段の生活から新しいサービス、技術を取り入れ、政府も企業も生活者もみんなでより良い社会に近づけるようにデザインしていきましょう。日本も技術的にも国民性としても、それは十分にできるはずです。
仕事も家庭も、どちらも大切にできる働き方。それは決して夢ではありません。北欧の人たちが実現しているように、私たちにもできるはずです。技術は、私たちをより豊かな生活へ導いてくれる力があります。
あなたの会社でも、少しずつ変化を起こしていきませんか?


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