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地震に備えて、水や食べ物を用意しているお宅は多いと思います。我が家にも、防災リュックが玄関のそばに置いてあります。
では、ひとつだけ質問させてください。
その備え、真冬に停電したときのものになっていますか。
水も、食べ物も、モバイルバッテリーもある。でも、部屋の温度が下がっていくことへの備えは、手つかずのご家庭も多いのではないでしょうか。
雪国に住んでいると、夏の停電と冬の停電は、まったく別のものだと感じます。冬は、暖房が止まった瞬間から部屋がじわじわ冷えていく。それが夜だったら、朝までまだ何時間もあります。
今日は、暖房が止まった夜をどう越すかを、一緒に考えてみたいと思います。
先に、こんな備えはいかがでしょうか。
- 石油ファンヒーターが主役のお宅 → 石油ファンヒーター+ポータブル電源
- 高気密・高断熱のお宅 → 電気毛布+ポータブル電源
どちらも、大きな容量は要りません。理由も含めて、順にご説明しますね。

あの1時間で、背中が冷たくなった
我が家も、冬に停電を経験したことがあります。
といっても1〜2時間ほどで復旧したので、大ごとにはなりませんでした。ライトを灯して、子どもと「なんだかキャンプみたいだね」なんて話していたくらいです。
でも、部屋の温度があっという間に下がっていくのを感じたとき、ふと思ったのです。
これがもし、夜通しだったらどうしよう。
石油ファンヒーターは、灯油があるのに電気が来ていないので動きません。エアコンも当然つきません。窓の外は雪。朝までまだ8時間。
幸い、その日は何事もなく電気が戻りました。それでも、あの背中がすっと冷たくなる感じは、いまも覚えています。
北国に住んでいると知っています。寒さは、時々本気で怖い。
北欧では、国が「3日間」を求めています

驚いたのが、北欧の国々の備え方でした。
スウェーデンでは2018年、政府の指示で『危機や戦争が起きたら』という小冊子が、全国およそ490万世帯のポストに配られました。深刻な事故、異常気象、サイバー攻撃。そうしたときに家庭でどう備えるかをまとめたものです。
この冊子で示されたのが、72時間という考え方でした。
社会のふつうの機能が止まったとき、まず自分の力で3日間を乗り切る。
お隣のフィンランドにも、そのものずばり「72時間」という名前の取り組みがあります。電気も暖房も水も食べ物もない状態で、3日間生き延びられるように、という内容です。
さらにノルウェーは、2024年に踏み込みました。従来「水と電気なしで最低3日」としていた推奨を、7日間に引き上げたのです。しかもノルウェーの当局は、停電時に「どう暖を取るか」の計画を重要な項目として挙げています。
ヒュッゲやフィーカのような穏やかな言葉を持つ国が、同時に「3日間は自分でなんとかしてください」と全世帯に伝えている。暗くて長い冬と付き合ってきた人たちだからこそ、自然は時々こちらの都合を聞いてくれないと知っているのだと思います。
雪国なら、72時間を「暖房」から考える
ただ、この72時間をそのまま日本の家庭に持ち込む必要はないと思っています。
私が北欧の話を知って考えたのは、「うちには3日分の食料があるか」ではありませんでした。
暖房が止まったら、今夜をどう越すか。
雪国では、こちらのほうが切実です。3日先の食料より、まず目の前の一晩なのですよね。
ここから先は、その一晩を越すための話をします。
まず、お宅の暖房はどれですか

具体的な道具の話に入る前に、ひとつだけ。
ご家庭のメインの暖房を思い浮かべてみてください。それによって、備えるべきものが変わります。
- 電源なしで使える暖房がある(昔ながらの石油ストーブなど) → すでに大きな安心があります。灯油の量と換気の確保が中心になります
- 石油ファンヒーターを使っている → 灯油はあるのに電気で止まる状態。これを動かす手立てが要ります
- エアコンや電気暖房しかない → 停電すると打つ手がなくなります。少ない電力で暖まる手段を足しておきたいところ
- 高気密・高断熱の住宅にお住まい → 燃える暖房は慎重に。実はいちばん備えが要るタイプかもしれません
- 小さなお子さんや高齢のご家族がいる → 部屋全体をどう暖めるかを優先に
- 電気を使う医療機器をお使いの方がいる → この記事の範囲を超えます。電力会社とかかりつけの先生に、事前のご相談を
ご自分がどれに当てはまるか、頭に置いたまま読み進めていただけたらと思います。
暖房それぞれの、得意と不得意
電気の消費量の違いは次のとおりです。
| 暖房器具 | 消費電力の目安 |
|---|---|
| 電気ストーブ・セラミックファンヒーター | 1000W前後 |
| こたつ(弱) | 約100W |
| 電気毛布 | 50〜60W |
| 石油ファンヒーター | 点火時300Wほど → 燃焼中は10〜30W |
いちばん下の行を見てください。
石油ファンヒーターは、火をつける一瞬だけ電気を使って、あとはほとんど電気を必要としません。灯油が燃えて暖かくなるので、電気は送風のファンを回すぶんだけで足りるからです。
一方、電気ストーブは電気そのものを熱に変えます。だから、どうしても消費電力が大きくなります。
この差が、そのまま備え方の差になります。
① 電源のいらない石油ストーブ(対流式)
昔ながらの、上でお湯が沸くタイプです。
正直なところ、停電時にいちばん頼りになるのはこれでした。電気がまったく要らないので、停電と無関係に燃え続けます。お湯が沸かせるから、湯たんぽも作れるし、カップ麺も食べられる。給油1回で10時間以上もつモデルが多いのも心強いところ。
弱点は、場所を取ること。それと夏場の収納です。本体は1万円台から3万円ほど、あとは灯油代がかかります。
換気は必須ですし、灯油の保管場所も要ります。
そしてもうひとつ、大事な注意があります。最近の高気密・高断熱の住宅では、一酸化炭素中毒のリスクが高くなります。家の隙間が少なく、空気が入れ替わりにくいからです。お住まいがそうしたお宅なら、石油ストーブは基本的に避けたほうがいいと思います。
② 石油ファンヒーター+ポータブル電源
石油ファンヒーターをお使いのご家庭であれば、これがひとつの選択肢になります。
灯油はあるのに電気で止まってしまう、あの状態を解消する方法ですね。いま冬を越している暖房が、そのまま非常用になるので、新しい暖房を買い足さずに済みます。
点火の一瞬に300Wほど使いますが、燃えはじめてしまえば10〜30W。消費電力が小さいので、電気ストーブよりずっと長く使えます。
一方で、石油ファンヒーターをお使いでないご家庭なら、この方法のためにわざわざ買いそろえる必要はないと思います。エアコンや電気暖房が中心のお宅は、このあとの④や⑤のほうが現実的です。
ただし、実際に何時間もつかは、機種の消費電力や電源の容量、点火の回数によって変わります。「電源の容量÷消費電力」の計算どおりにはいきません。お使いの機種の仕様で確かめてみてください。
そしてもうひとつ。すべてのヒーターがポータブル電源で動くわけではありません。相性があるので、取扱説明書の確認を。
なお、石油ファンヒーターも①と同じく、燃えた排気が部屋の中に出るタイプです。高気密・高断熱のお宅では、こちらも同じリスクがあるとお考えください。
費用はポータブル電源の分だけで、500〜1000Whのクラスなら5万円台から8万円ほどが目安です。
③ カセットガスストーブ ── 雪国では注意が必要です
防災用としてよく紹介されるので、期待された方もいるかもしれません。ここは正直にお伝えします。
雪国では、おすすめしにくいのです。
カセットボンベの中身は主にブタンというガス。これが、気温5℃を下回るあたりから気化しにくくなります。つまり、暖房の力がはっきり落ちる。0℃以下では、火力が出なかったり、うまく燃えなかったり。
冷えた部屋を暖めたいときに限って弱くなる。悩ましいですよね。しかも玄関や物置に置いていたら、ボンベ自体が冷え切っています。
燃焼時間もボンベ1本で2〜3時間ほど。本体は1万円台から2万円ほど、ボンベは1本100円前後ですが、使い続けると意外に積み上がります。
向いているのは、短時間の使用。室内がまだ冷え切る前や、暖かい部屋での補助としてなら十分に働いてくれます。向かないのは、氷点下での長時間。
④ 電気毛布+ポータブル電源
部屋は暖まりません。でも、人は暖まります。
消費電力が50〜60Wしかないので、1000Whくらいの電源なら、単純計算で十数時間ぶん。実際には電気を変換する際のロスがあるので、それより短くなると考えておくのが安全です。
それでも、効率でいえばこれがいちばん優秀かもしれません。家族それぞれが1枚ずつ持っていれば、布団の中で朝を待てます。
毛布そのものは3,000円台から8,000円ほど。手が届きやすいので、まず何かひとつ、というときには現実的な選択だと思います。
⑤ 湯たんぽ・厚手の毛布
なんだ、と思われるでしょうか。
でも、電気もガスも要らないという強さは、ほかに代えられません。1,000円台から3,000円ほどで手に入って、壊れることもない。①の石油ストーブがあれば、お湯はいくらでも沸かせます。この組み合わせが、実はかなり強い。
注意するとすれば、お湯を沸かす手段が別に要ることと、低温やけどでしょうか。
5つを、ひと目で

まずは「部屋ごと暖める」3つから。
| 部屋を暖めるもの | 持続 | 費用の目安 |
|---|---|---|
| ① 石油ストーブ(電源不要) | 給油1回で10時間以上 | 1〜3万円ほど+灯油代 |
| ② 石油ファンヒーター+電源 | 消費電力が小さく長時間向き | 電源5〜8万円ほど |
| ③ カセットガスストーブ | ボンベ1本2〜3時間 | 1〜2万円ほど+ボンベ代 |
続いて「体を暖める」2つ。部屋は暖まりませんが、そのぶん少ない電力で長くもちます。
| 体を暖めるもの | 持続 | 費用の目安 |
|---|---|---|
| ④ 電気毛布+電源 | 1000Whで十数時間(ロスを考えると短め) | 毛布3,000〜8,000円ほど |
| ⑤ 湯たんぽ・毛布 | 一晩ほど | 1,000〜3,000円ほど |
※持続時間はいずれも目安です。機種や気温、使い方によって変わります。
こうして並べてみると、見えてくることがあります。
どれかひとつで全部を賄おうとしなくていい、ということです。
部屋を暖めるもの(①か②)と、体を暖めるもの(④か⑤)。ひとつずつ持っておく。これがいちばん現実的な組み合わせかもしれません。
⚠️ 火を使う暖房の、大切な注意
あたたかい話のあとに恐縮ですが、ここは必ずお読みください。
石油ストーブ、石油ファンヒーター、カセットガスストーブ。いずれも燃焼する暖房は、停電中でも換気が欠かせません。閉め切ったまま使うと、一酸化炭素中毒の危険があります。
必要な換気の方法や頻度は、機器の種類や部屋の条件によって違います。お使いの機器の取扱説明書に従ってください。
そして、もし換気が難しい状況であれば、燃焼する暖房を無理に使わないでください。電気毛布や湯たんぽで体を暖める、あるいは避難できる場所へ移る。その判断のほうが安全です。
高気密・高断熱のお宅は、考え方を変える
ここまで①〜③の暖房をご紹介してきましたが、実はこの3つはいずれも、燃えた排気が部屋の中に出るタイプです。家の隙間が少ない高気密・高断熱の住宅では、どれも慎重に扱う必要があります。
では、そうしたお宅はどうすればいいのか。
ふだんお使いなのは、エアコンや電気ストーブ、セラミックヒーターといった電気の暖房ではないでしょうか。燃やさないので一酸化炭素の心配がなく、高気密の住宅にはたしかに向いています。
ただ、ここに落とし穴があります。
停電すると、それらは全部止まってしまうのです。燃える暖房を避けているぶん、停電したときに手元に残るものがない。実は高気密・高断熱のお宅こそ、冬の停電に対しては無防備になりやすいのですね。
「じゃあ電気ストーブをポータブル電源で」と考えたくなりますが、ここで最初の表に戻ってきます。電気ストーブは1000W前後。1000Whの電源でも1時間ほどで空になってしまいます。
なので、答えはこうなります。
部屋を暖めることをあきらめて、体を暖めることに切り替える。
電気毛布と湯たんぽ、厚手の毛布。電気毛布なら50〜60Wですから、同じ電源でずっと長くもちます。一酸化炭素の心配もありません。
「部屋が寒いまま」と聞くと不安かもしれません。でも布団の中さえ暖かければ、一晩は越せます。無理に部屋を暖めようとして危険を冒すより、ずっと安全な選択です。
ポータブル電源を考えるなら
ここからは、ポータブル電源の話をもう少しだけ。
その前に。要らないご家庭もあります
先にお伝えしておきたいことがあります。
すでに電源不要の石油ストーブがあって、灯油も十分に備えているご家庭なら、ポータブル電源を最優先で買う必要はありません。
その場合は、湯たんぽや毛布、停電時の灯り、スマートフォンの充電手段など、別のところから埋めていくほうが合理的だと思います。備えは、弱いところから順に埋めるものですから。
ポータブル電源が効いてくるのは、主に石油ファンヒーターをお使いのご家庭です。灯油はあるのに電気で止まってしまう、あの状態を解消できます。
雪国の人だけが知っておくべき、大事な落とし穴
そのうえで、雪国の方にどうしてもお伝えしたいことがあります。
ポータブル電源は、寒いと働けなくなることがあります。
中のリチウムイオン電池は寒さが苦手です。気温が下がると出せる電気の量が減り、電池を守るための安全装置が働いて、電気を出すこと自体をやめてしまうこともあります。
つまり、こういうことです。
玄関・車庫・物置・車の中に置きっぱなしにしていた電源は、いざという時に動かないかもしれない。
雪国の冬、暖房のない玄関や車庫がどれだけ冷えるかは、秋田で暮らしていると身をもって分かります。防災用だから邪魔にならない場所に、と物置にしまいたくなりますが、それが一番危ない置き方だったわけです。
保管は、人が過ごしている部屋の中に。押し入れやクローゼットでも構いませんが、暖房の届く部屋であることが大事です。
急に暖かい場所へ持ち込むと、内部に結露が起きて故障の原因になることもあります。冷えてしまった時は、ゆっくり室温に戻してあげてください。
ちなみに、カセットボンベも同じです。寒い場所での保管は避けてください。
選ぶときに、仕様表で確かめたいこと
商品を選ぶときは、次の点を見ておくと安心です。
動作温度:使える温度の範囲が書かれています。ここで注意したいのは、電気を出せる温度、充電できる温度、しまっておける温度が、それぞれ違うということ。特に充電は、放電より条件が厳しいことが多いようです。製品によって差が大きいので、必ずお使いになる製品の仕様表でご確認ください。
定格出力:石油ファンヒーターの点火には300Wほど必要ですから、それに耐えられるかどうか。
電池の種類:「リン酸鉄リチウム」(LiFePO4)と書かれたものは、くり返し充電に強いタイプとされています。ただし、電池の種類だけで防災用としての良し悪しが決まるわけではありません。保管できる温度、充電できる温度、出力の大きさもあわせて見てみてください。
数年に一度の停電のために置いておくものですから、長い目で見て安心して使えるものを選びたいですよね。
容量については、500〜1000Whくらいがひとつの目安になると思います。それ以上は、雪国のこの使い方なら持て余すかもしれません。
そして、まずひとつだけなら電気毛布を。消費電力が小さく、値段も手が届きます。停電がなくても毎晩使えるのが、いちばんいいところかもしれません。
最近は、モバイルバッテリーを使用できるものもあります。これなら一人に一つ準備しやすいですね。
我が家なら、この順番で
もし今から備えるなら、この3段階だと思っています。
ひとつめ。電気がなくても暖まれるものを、ひとつ。 湯たんぽでも、厚手の毛布でも構いません。いちばん安くて、いちばん確実です。
ふたつめ。いま使っている暖房を、動かせるようにする。 石油ファンヒーターをお使いなら、ポータブル電源がここに入ります。ポータブル電源があればスマホの充電や灯りの確保にも活かせます。
みっつめ。そのポータブル電源を、暖かい部屋の中で保管する。 ここを間違えると、せっかくの備えが全部無駄になります。
北欧の国々が言う「3日間」を、いきなり完璧に用意するのは大変です。でも、一晩を越せる備えなら、今日から作れます。
そういえば、ノルウェーは推奨を3日から7日に見直しました。備えは一度そろえて終わりではなく、時々見直すもの。そういうことなのだと思います。
まとめ:寒い夜を、こわがりすぎないために
停電は、起きてほしくないものです。でも雪国に住んでいる以上、いつかは巡ってくるものでもあります。
大事なのは、たくさん買い込むことではなくて、あの夜どうするかを一度考えておくこと。考えてある人は、実際に停電が起きても少しだけ落ち着いていられます。
スウェーデンの冊子も、フィンランドの「72時間」も、たぶん人を怖がらせるために作られたものではありません。知っていれば、必要以上に怯えなくて済む。そのためのものなのだろうと思います。
我が家も、あの1時間があったから、こうして調べる気になりました。ろうそくの灯りで笑っていた子どもに、次はもう少し胸を張って大丈夫だよと言えたらいいなと思っています。
今年の冬が来る前に、ひとつだけ。
もし今夜、電気が止まったら。お宅は、どうやって朝まで暖まりますか。
一息ついて、がんばりましょ🍀
Fikaな暮らしでいいじゃない☕️
参考
- スウェーデンの備え:MSB(スウェーデン民間緊急事態庁)公式、Krisinformation.se、スウェーデン政府
- フィンランドの「72時間」:72tuntia.fi、フィンランド救助庁(pelastustoimi.fi)
- ノルウェーの自助の備え:DSB(ノルウェー市民保護庁)、Aftenposten
- 暖房器具の消費電力:エネチェンジ、楽天エナジー、Looopでんき ほか
- カセットガスの低温特性:BE-PAL、hinata ほか
- ポータブル電源の低温時の挙動:各メーカー公式の仕様情報・サポート情報
※消費電力・持続時間・価格はすべて目安です。製品や使用条件によって大きく変わります。価格は2026年8月2日時点で一般に流通している製品のおおよその幅です。ご購入前とご使用前に、各製品の仕様と取扱説明書を必ずお読みください。





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