アイスランドのデザインブランド3選|羊毛とサガの島、物語を宿すものづくり

羊毛とアイスランド アイテム

北欧デザインの旅、今回の目的地は、いちばん遠くて、いちばん不思議な島です。スウェーデンでもデンマークでもフィンランドでもなく、アイスランド。人口はおよそ40万人──日本の300分の1ほどしかいない、火山と氷河の島国です。そんな小さな国のデザインの物語をお伝えします。

実はこの島、「北欧デザイン」の地図の中でも、かなり変わり者なのです。フィンランドのイッタラ、デンマークのフリッツ・ハンセンのような、世界的に有名な家具や食器の「ブランド」は、アイスランドにはほとんどありません。そのかわりにあるのは──土地と暮らしから生まれた、物語を宿すものづくりです。

今日は、アイスランドの3つのつくり手をたどりながら、「なぜこの島のデザインは物語を宿すのか」を、一緒に読み解いてみたいと思います。

サガの国 ── 物語が「日常」にある島

アイスランドを語るとき、欠かせない言葉があります。「サガ(saga)」──中世アイスランドで生まれた、一族や英雄たちの物語文学です。

千年ちかく前の物語が、いまも国の誇りとして生き続けている。それどころか、アイスランドでは妖精やトロルの言い伝えが、道路工事の計画に影響したという話が出るくらい、神話や物語が「昔のもの」ではなく、日常のすぐ隣にあるのです。

そしてもうひとつ、この島のものづくりを形づくってきたのが、「島にあるものでつくる」という感覚です。火山岩、流木、魚の革、そして羊毛。厳しい気候と限られた資源の中で、あるものを工夫して使い、そこに物語を織り込んでいく──きらびやかな名品というより、島の自然と暮らしに根ざした、物語のあるものづくり、それがアイスランドのデザインの原点にあります。

Studio Brynjar & Veronika ── 70歳のサメ漁師から学んだ家具

最初のつくり手は、Studio Brynjar & Veronika(スタジオ・ブリニャー&ヴェロニカ)。アイスランド人デザイナーのブリニャー・シグルダルソン(Brynjar Sigurðarson)と、ドイツ人デザイナーのヴェロニカ・セドルマイヤーによる、二人のデザインスタジオです。

ブリニャーの出発点となった物語が、とびきり印象的です。

2009年、彼はアイスランド北東部の小さな港町、ヴォプナフィヨルズュルに4週間滞在しました。そこで出会ったのが、70歳のサメ漁師・フレインさん。ブリニャーは彼から、漁網を編むための針と紐の技法を教わります。

そしてその漁師の技法を、木材と現代的な素材を組み合わせた家具のシリーズ「The Silent Village」(2013年)へと翻訳したのです。消えつつある漁師の手仕事が、家具というかたちで静かに生き続ける──まるで、サガの語り部のようなものづくりですね。

ブリニャーは、自分の作品についてこんな言葉を残しています。

「私は、自分の作るオブジェクトを、答えではなく、何かを始める引き金として見ていたい」

便利さという「答え」を売るのではなく、見た人の中に物語や問いが生まれる「きっかけ」をつくる。この思想は、機能や量産を追求してきた北欧デザインの主流とは、まったく別の方向を向いています。2018年には、スカンジナビアデザインの権威ある賞のひとつ、トルステン&ヴァニヤ・セーデルベリ賞も受賞しました。

ちなみに、彼らの作品「Circle Flute」は、アイスランドを代表する音楽家ビョーク(Björk)のワールドツアーの舞台でも使われたことで知られています。楽器のようで彫刻のような、不思議なオブジェクトです。

(※作品は主にパリのギャラリーやコレクター向けで、日本で見たり買ったりする機会は限られています。関心のある方は、ギャラリー(Galerie kreo)やアイスランドデザイン博物館(Hönnunarsafn Íslands)の情報をのぞいてみてください。)

Farmers Market ── 「裏庭の素材」から生まれた服

2つめのつくり手は、ぐっと暮らしに近づきます。Farmers Market(ファーマーズマーケット)──2005年に、テキスタイルデザイナーのベルクソラ・グズナドッティルと、ミュージシャンの夫ヨエル・パルソンが立ち上げた、夫婦のブランドです。

始まりは、とても小さなニットのコレクションでした。素材は、アイスランドウール。彼らいわく、それは「裏庭に生えている素材」──つまり、わざわざ遠くから取り寄せるのではなく、この島で羊が育ててくれる毛から服をつくる、という自然な選択でした。

アイスランドには、首まわりに幾何学模様の編み込みが入った「ロパペイサ」という伝統的なセーターがあります(実は20世紀半ばに広まったとされる、わりあい新しい「伝統」なのですが、いまや国民的な存在です)。Farmers Marketの服は、こうした島の編み物文化を土台に、抑えた色合いと現代的なシルエットで再解釈したもの。「農と海の暮らし」の質感を残しながら、都会の暮らしにもなじむデザインです。

アイスランドウールは、外側の長い毛と内側のやわらかい毛の二層構造で、軽くて暖かく、水を弾きやすいとされています。厳しい島の気候が育てた素材が、そのまま服の物語になっているのですね。

66°North ── 命を守るために生まれた服

3つめは、少し毛色の違うつくり手です。66°North(シックスティーシックス・ノース)──1926年創業、いまではアイスランドで最も大きな衣料ブランドに育った存在です。

始まりは、北西部の荒々しい海に面した小さな漁村でした。創業者ハンス・クリスチャンソンが見ていたのは、北大西洋の過酷な天候の中で働く漁師たちの姿。この土地では、きちんとした防寒・防水の服があるかどうかが、大げさではなく「生きるか死ぬか」に直結していました。ハンスは、漁師を守る服をつくるために、わざわざノルウェーまで裁縫を学びに行ったといいます。

ブランド名の「66°North(北緯66度)」は、村のそばを通る北極圏の緯度線から採られました。地名でも創業者の名でもなく、「自分たちが立つ、厳しい自然の座標」そのものを名前にする──ここにも、アイスランドらしさがにじみます。

華やかな装飾ではなく、「人を守る」という切実な必要から生まれ、島の自然とともに100年ちかく育ってきた服。そういえば、最初にご紹介したサメ漁師の技法といい、この島のものづくりは、くりかえし「海」と「漁師」に戻っていくのですね。

アイスランドの暮らし観 ── 「島にあるもの」と「物語」

Image by meipakk from Pixabay

3つのつくり手を並べてみると、共通の糸が見えてきます。

  • Studio Brynjar & Veronika:漁師の技法を家具に翻訳 ──「オブジェクトは物語の引き金」
  • Farmers Market:裏庭の素材=羊毛から服をつくる ──「島にあるものでつくる」
  • 66°North:漁師を守るために生まれた服 ──「厳しい自然が、ものづくりを形づくる」

フィンランドやデンマークが「企業ブランドと量産の名作」で北欧デザインを牽引してきたのに対して、アイスランドのものづくりは、個人や夫婦といった小さなつくり手が、島の素材に物語を織り込むかたちで育ってきました。

派手さや完成度を競うのではなく、「なぜ、これがここで生まれたのか」という物語が宿っている。そう考えると、ひとつひとつのものが、いっそう愛おしく見えてきませんか。

まとめ:小さな島の、大きな物語

Image by Bernd Hildebrandt from Pixabay

アイスランドのデザインが物語を宿すのは、偶然ではありませんでした。サガの語りが日常に息づく文化と、「島にあるものでつくる」しかなかった暮らし。その2つが重なった場所に、漁師の技法を継ぐ家具や、裏庭の羊毛から生まれる服が育ったのです。

有名ブランドの名品を持つことだけが、デザインとの付き合い方ではないのかもしれません。ものの向こうにある物語に耳を澄ませてみる──アイスランドのつくり手たちは、そんな楽しみ方をそっと教えてくれます。

一息ついて、がんばりましょ🍀
Fikaな暮らしでいいじゃない☕️

参考

  • Studio Brynjar & Veronika:Galerie kreo、Designmuseo Helsinki インタビュー、Scandinavian Design(Söderberg Prize 2018)他
  • Farmers Market:公式サイト(farmersmarket.is)、Merchant & Makers インタビュー 他
  • 66°North:66°North 公式(66north.com/About us)、Guide to Iceland、Hatchet Supply(CEOインタビュー)他
  • アイスランドデザイン全般:Hönnunarsafn Íslands(アイスランドデザイン博物館)

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