転職は「逃げ」じゃない|デンマークの人が仕事を変えるのをためらわない理由

窓辺でマグカップを持ち、窓の外の分かれ道を眺める人の後ろ姿 働き方

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「転職したいなんて、ただ逃げたいだけなのかな」
そんなふうに、自分にブレーキをかけたことはありませんか。
上司とどうしても合わない。お給料が見合わない気がする。
この仕事、本当に自分に向いているのかな。
そう思いながらも、「せっかく入った会社だし」「どこへ行っても同じかも」と、気持ちにふたをして、今日も同じ電車に乗る。
そんな毎日を送っていませんか?

日本では、ひとつの会社で長く働くことが、まだまだ「えらいこと」とされがちですよね。だからこそ、仕事を変えたいと思う自分を、どこか責めてしまうのかもしれません。

一方、北欧のデンマークでは、仕事を変えることは人生のごく普通の選択肢です。

私自身は転職をしたことがありませんが、考えたことは何度もあります。

そのたびに「次が見つからなかったらどうしよう」「今より悪くなったら」と不安が先に立って、結局、一歩も動き出せませんでした。

それでもデンマークの働き方を調べていくうちに、「転職=逃げ」という見方が、少しずつほどけていきました。

この記事から分かること
・デンマークでは、転職することは当たり前
・より自分にあった仕事、やりがいのある仕事を探すのは自然なこと
・デンマークの転職ができる仕組み
・日本でできる今の仕事を続けたままの次への一手

今日は、デンマークの人たちが仕事を変えるのをためらわない理由と、日本で、今の仕事を続けたままできる小さな一歩をご紹介します。

デンマークの転職事情

Image by Ronald Carreño from Pixabay

まずは数字から見てみましょう。

デンマーク統計局の調べでは、2024年の終わりごろ、働く人の22.2%、約5人に1人が「この1年以内に今の仕事を始めた人」でした。(この中には、学校を出て初めて働き始めた人も含まれます。)

同じ職場で働き続ける年数の平均も、ずいぶん違います。

同じ職場で働く年数の平均
🇩🇰 デンマーク約7年(OECD、2025年)
🇯🇵 日本約13年(厚生労働省、2025年)

※調べ方や対象が少し違うため、あくまで目安としての比較です。

ひとつの職場にいる期間が、日本よりかなり短い。デンマークでは、仕事を移ることがそれだけ身近なのかもしれません。

デンマークの働き方そのものについては、[デンマークの働き方・幸福度が高い理由]でもご紹介しています。

デンマークの転職の理由は、意外と「普通」

「デンマークの人は、やりがいや夢を追いかけて、どんどん転職していくのかな?」

そう思うかもしれません。でも、実際の理由はもっと身近なものでした。

デンマークの大手求人サイトJobindexの2026年の調査によると、仕事を変える理由のトップ3は、こうなっています。

  1. 直属の上司への不満
  2. お給料・待遇
  3. 別の業界に移りたい

どうでしょう。日本の職場で、私たちがもやもやしていることと、ほとんど変わらないと思いませんか。

デンマークの人たちも、最初から「これが私の天職です」と分かって働いているわけではないようです。

やりがいは、はじめからそこにあるものではない

UnsplashのSaulo Mohanaが撮影した写真のSaulo Mohanaが撮影したイラスト素材

ここは、私の考えですが、入社した1社目から自分にあった仕事に出会える確率ってどのくらいなのでしょうか。

1社に定年まで勤め上げるというのは実は不自然なことかもしれません。

「自分にあった仕事がしたい」「やりがいのある仕事をしたい」と思うとき、私たちはつい、素晴らしい仕事がどこかに用意されていて、それを一発で引き当てようとしてしまいます。

でも、やりがいは最初からそこにあるものではなく、いろいろな仕事や人に出会うなかで、だんだんはっきりしてきたり、ふと見つかったりするものなのではないでしょうか。

これには、心理学の研究にもヒントがあります。

アメリカのスタンフォード大学の研究チームが2018年に発表した研究では、「興味は生まれつき決まっていて、見つけるもの」と考える人ほど、新しい分野が難しくなったときに興味を失いやすい、という結果が出ました。
研究チームは、情熱は見つけるものというより、育てていくものと考えるほうがいい、と提案しています。

もちろん、この研究は「転職すればやりがいが見つかる」と言っているわけではありません。

ただ、やりがいが経験のなかで育っていくものだとしたら、上司と合わない、お給料に納得できない、別の業界が気になる、そんなもやもやを「自分の我慢不足」と片づけてしまう必要はないのかもしれません。

今の仕事だけを正解と思い込まず、ほかの仕事や働き方を知ってみる。

それは逃げではなく、やりがいを探している途中なのだと思います。

辞めるかどうかを決めるのは、そのあとでも遅くありません。

よく考えれば、20歳前後の狭い知識と経験の中で、自分にあった最高の1社を一発で当てる、かなり難しいことだと思ませんか?

様々な職を経験し、自分自身も成長しながらその適性に気づいていく。

さらに、40年も働く期間があれば、その間に興味ややってみたいことも変化していくのが当たり前ではないでしょうか。

不満を吐き続けながら、ずっと同じ会社に留まる姿、よく考えたら変です。

だとすれば、転職することの方が自然に思えてきます。

デンマークの社会にある「安全網」

Image by Pexels from Pixabay

とはいえ、「仕事を変えてみよう」と思っても、怖いですよね。

やはり、うまくいかなかったらどうしよう、今より状況が悪くなったらどうしようと心配になります。

実は、デンマークの人たちが特別に勇敢なわけではありません。

違いの正体は、仕組みにもありました。

デンマークには「フレキシキュリティ」と呼ばれる働き方の仕組みがあります。「柔軟さ(フレキシビリティ)」と「安心(セキュリティ)」を合わせた言葉です。

デンマーク政府の労働の担当機関によると、この仕組みは3つの柱でできています。

  • 仕事を変えやすい:仕事を変えることが当然の社会だからこそ、会社は人を雇ったり、人員を見直したりしやすい。解雇される可能性も高いという怖さもありますが、その反面再就職もしやすくなります。
  • 失業しても暮らしを支える:失業保険に1年以上入っているなど、条件を満たした人は、以前の収入の最大90%の手当を、原則2年間受け取れる。(金額には上限があるため、収入が高い人ほど割合は下がります)
  • 次の仕事への後押し:失業中の人だけでなく、働いている人にも、職業訓練や学び直しの支援があります。キャリアアップをすることで、社会全体も向上していく良さがあります。

イメージとしては、サーカスの空中ブランコの下に張られたネット。

下にネットがあるから、思いきって次のブランコに手を伸ばせる。

もし落ちても、そのネットが拾ってくれて、もう一度のぼってくればいい。

この安心感があるからこそ、フットワーク軽く、もっと自分にあった仕事・職場へ動き出せるんですね。

今すぐやめなくても、「手を離さずに」次を見ることはできる

UnsplashのJezael Melgozaが撮影した写真のJezael Melgozaが撮影したイラスト素材

では、日本はどうでしょうか。

日本の雇用保険の失業手当(基本手当)が受け取れる日数は、退職の理由や年齢、働いていた期間によって90日〜360日。

自分から辞めた場合は、90日〜150日です。デンマークの「原則2年」とは、ずいぶん違いますよね。

さらに、厚生労働省の調べ(2025年)では、転職してお給料が増えた人は40.8%、減った人は31.0%でした。転職すれば必ずうまくいく、というわけではありません。

だからこそ、日本では先に仕事を辞めてから次を探すのは、なかなか大変です。

でも、ここで大事なことがあります。

今の仕事を続けたままでも、転職活動は始められるということです。

空中ブランコでいえば、今つかまっているブランコから手を離さないまま、次のブランコがどこにあるのかを見ておくような感じでしょうか。

たとえば、こんなことは今日からでもできます。

1. 求人情報をながめてみる

ハロワークの求人票でもいいですが、今はインターネットで転職情報も手軽に入手できます。

見たら、応募しなくてはいけないなんてルールはありません。

「こんな仕事があるんだ」「この業界はこういう人を求めているんだ」と知るだけで、世界が少し広がります。

今の経験を生かすと、どんな選択肢があって、年収はどのくらいが目安なのか。

知っておくだけで、見え方が変わることもあります。

2. 自分の経験と希望を書き出してみる

これまでどんな仕事をしてきたか。

次の職場で、何は譲れなくて、何なら手放せるか。

スマホのメモでもいいですが、ノートとペンでぜひ書き出してみてください。

ノートとペンに書く方が頭が整理され、精神的にも落ち着く効果があるそうです。

「自分が本当に変えたいのは何なのか」が少し見えてきます。

今の不満が見えれば、今の仕事を良くする手がかりになるかもしれません。

転職したとしても、次はやっぱり自分の能力、適性があったところがいいですよね。

3.自分の「ほかの道」を知るなら、国の無料サイト「job tag」

求人をながめるだけでは、「自分にはどんな仕事が合いそう」か分かりにくいこともありますよね。

かといって、「いきなり転職エージェントに相談するのは、ちょっと気が重い」。そんな方が自分のペースで調べる方法のひとつに、厚生労働省のjob tag(ジョブタグ)という、仕事や自分の適性について調べられるサイトがあります。

いくつかの質問に答えると、自分の興味や、仕事で大切にしたいことに合いそうな職業を挙げてくれる診断(職業興味検査・仕事価値観検査など)が、無料・会員登録なしで使えます。

気になった職業は、仕事の中身や必要なスキル、年収の目安まで調べられるので、「やりがいを探している途中」の人にも使いやすいと思います。

登録しなくても使えますが、結果は保存してから24時間で消えます。

あとで見返したいときは、無料のユーザー登録をするか、結果を手元に保存しておくと安心です。

ただし、年収は国の統計をもとにした、職業ごとのあくまで目安です(職業によっては載っていないものもあります)。

あなた自身の年収や、採用されるかどうかを示すものではありません。

「今の職場しか知らない」状態から、ほかの可能性を知るきっかけ、くらいに考えておくのがちょうどいいのかもしれません。

私が転職を考えていたころに、こういう診断を知っていたら、少なくとも「のぞいてみる」ことはできたかもしれない

と思います。辞めると決めなくても、応募しなくても、自分にどんな道があるのかを知ることはできるのですから。

まずは見てみたい方は、こちらからどうぞ。

誰かと一緒に整理したいなら、在職中でもハローワークへ

「ハローワークは、仕事を辞めた人が行くところ」と思っていませんか。

実は、今働いている人も、無料で職業相談ができます。

一部の施設では、平日の夜や土曜日に相談できるところもあります。

求人を紹介してもらうだけでなく、「自分の経験だと、どんな仕事が考えられるか」を一緒に整理してもらう、という使い方もできます。

もちろん、相談したからといって、すぐに応募したり、辞めると決めたりする必要はありません。

夜や土曜日に相談できるかは、施設によって違いますので、お近くのハローワークの受付時間を確かめてください。

もし今、心も体も限界に近いなら

Image by Max from Pixabay

それから、ひとつだけ。

もし今、眠れない日が続いている、朝になると涙が出るというほどつらいなら、転職活動よりも先にまず休むことを大切にしてください。

「休んだら、お金はどうなるの?」と不安になりますよね。

デンマークほど手厚くはありませんが、日本にも、前述した失業手当の他に、生活を支える仕組み(セーフティネット)があります。

ただし、誰でも同じように使えるわけではなく、入っている保険や働いていた期間などによって条件が変わりますので、詳細は専門家にご相談ください。

病気で会社を休むなら「傷病手当金」

会社の健康保険に入っている人が、病気やけがで仕事を休み、お給料が出ないときに受け取れるお金です。

  • 連続して3日休んだあと、4日目から受け取れる
  • 金額は、おおむねお給料の3分の2
  • 受け取れる期間は、通算で1年6か月まで

心の不調も、医師が「働けない」と判断すれば対象になります。

辞めたあとに休むなら、失業手当の「受給期間の延長」

失業手当(基本手当)は、ふつうは辞めた翌日から1年の間に受け取ります。ただ、病気などで30日以上続けて働けないときは、その期間を延ばすことができます(最長3年)。

まず体を休めて、元気になってから仕事を探し始めても、手当を受け取れる道が残るということです。

※どちらも細かい条件があります。辞めることや休むことを決める前に、傷病手当金は加入している健康保険(協会けんぽや会社の健康保険組合)に、失業手当はお近くのハローワークに、自分の場合を確認してくださいね。

ひとりで抱え込まないで

厚生労働省の「こころの耳」という働く人向けのサイトでは、電話・SNS・メールで、無料・匿名で相談できる窓口が案内されています。

今は休むことが必要なら、仕事探しは後回しにして大丈夫です。次の仕事のことは、少し元気が戻ってから考えても遅くありません。選択肢は、そのときになっても、ちゃんと調べられます。

休むことは、立ち止まることではありません。次のブランコに手を伸ばすための、大切な準備です。

まとめ:辞めると決める前に、選択肢を知ってもいい

今日のお話を、3つだけ振り返ります。

  • デンマークの人が仕事を変えられるのは、勇気よりも「安全網」という仕組みのおかげ
  • やりがいは最初からあるものではなく、いろいろな経験の中で見つかっていくもの
  • 日本では、今の仕事を続けたまま、次の可能性を見ておくことができる

北欧のワークライフバランスについて書いた[北欧流ワークライフバランスの記事]では、「キャリアを自分中心に」考えることについてもお話ししています。

仕事を変えたいと思うことは、「逃げ」ではありません。

今すぐ仕事を変えなくてもいい。

辞めると決める前に、まずは選択肢を知ってみる。

次のブランコがどこにあるのかを知っておくだけで、今つかまっているブランコの握り方も、少し変わってくるかもしれません。

一息ついて、がんばりましょ🍀

Fikaな暮らしでいいじゃない☕️

参考

  • デンマーク統計局「Hver femte har været i jobbet i mindre end et år」(2025年2月20日)
  • OECD「Employment by job tenure intervals – average job tenure」(雇われて働く人・15〜64歳、2025年:6.7年)
  • 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」(一般労働者の平均勤続年数・男女計12.7年)
  • 厚生労働省「令和7年雇用動向調査 結果の概況」(転職入職者の賃金変動:増加40.8%・減少31.0%、表6)
  • デンマーク労働市場・採用庁(STAR)「Flexicurity」(2026年5月8日更新)
  • Jobindex「Her er de tre største grunde til at danskerne skifter job」
  • O’Keefe, P. A., Dweck, C. S., & Walton, G. M. (2018). Implicit theories of interest: Finding your passion or developing it? Psychological Science, 29(10), 1653–1664.
  • ハローワーク(厚生労働省)「基本手当の所定給付日数」「受給期間の延長」
  • 全国健康保険協会(協会けんぽ)「傷病手当金」
  • 全国健康保険協会(協会けんぽ)山形支部 広報資料(傷病手当金の請求理由の第1位が精神疾患)
  • 厚生労働省「こころの耳」(電話・SNS・メールの相談窓口)

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